断絶覚え書き

書いたり書かなかったり

「いまだ、おしまいの地」 読書感想文

 

いまだ、おしまいの地

いまだ、おしまいの地

  • 作者:こだま
  • 発売日: 2020/09/04
  • メディア: Kindle版
 

僕は九州の田舎に住んでいる。灰色の街だ。嫌いじゃないけど、好きでもない。そんなところで、いまだ終わらぬ戦いはあるけれど、元気にニコニコ暮らしてる。

そんな僕はいくばくかの読書を楽しみにしている。こだまさんの新著が出た。買おう。読もう。

 

実は、読むぞ!といった矢先、こだまさんから「メルヘンさんには申し訳ないんだけれど、メルヘン(仮名)が出てくる。あなたではないので安心してほしい。」とのリプライをいただいた。

俄然興味が湧いてくる。どんな悪い奴が出てくるんだ。

届いてすぐに、取り急ぎ件のメルヘンが出てくる話を読んだ。

こだまさんがメルヘン(仮名)さんにお金を騙し取られる話なんだけれど、とにかく変な声を出して笑ってしまった。メルヘンって文字にすればするほど、まるで僕がお金をだまし取ったみたいに見える。なんて悪い奴なんだ。

討伐隊が編成され彼の実家におしかけ、お金を返してもらう。なんて愉快。なんて痛快。

 

落ち着いて頭から読み始めると、どの話もクスッと笑える。だけど人生のどこかの場面がフラッシュバックするような、まるで遅効性の毒をもられているような。ある種の中毒性を感じた。

 

以前も感想文に書いたことがあるけれど、こだまさんとは性別も違えば、年齢も違う。人生で言えば大先輩だ。感覚や考え方だって決定的に違うところばかりだろう。全然全く違う。だけど、違うからこそ、同じ。違うということが同じ。僕はその感覚に心臓を掴まれている。

 

そしてそれでもなお、こだまさんに僕が救われているのは、エピソード全てがカラッとしているところだと思う。

どんなに重い話も、カラッと乾いた感覚が僕を笑いへと誘うし、僕を救う。

 

 

近所の古い映画ばかりを放映している映画館で「男はつらいよ」特集が今やっている。壁に貼ってあるPOPの寅さんが「やり直せない人間なんているかよ」と言っていた。まさにその感覚に近い。

こだまさんは寅さんとは似ても似つかない。悩んだり落ち込んだりしてる。それでもやっぱり、「やり直せない人間なんているかよ」と言われてるような気がする。

今回の話では随所に衝動的?とも言える行動をとるこだまさんが描かれているけれど、まさしく寅さん的であり、嫌なことがあっても最終的にカラリとした雰囲気に転化してくれる。

 

 

僕とは全然違う場所に住んでいる。聞くところによるとすごく寒いところらしい。しかも山。そんなことないんだろうけど、マタギみたいなのを想像してしまう。いや、もしかしたらマタギなのかもしれないけれど。そんなこだまさんから発せられる、流れのゆるやかな文章はとても体にしみる。

まだまだ書いてほしいし、まだまだ読みたい。けれど、お体には気をつけてほしい。

 

 

 

 

 

あと、個人的にお母さんがハワイ旅行にいくことになった経緯はとても好きでした。「嘘みたいな本当の話」ってのは往々にしてあるけれど、ここまで完成度の高いのは初めてでした。