断絶覚え書き

書いたり書かなかったり

トラブル


今週から九州も梅雨入りした。
雨は嫌いだ。頭は痛くなるし、髪の毛は収拾がつかなくなるし。何より湿気がダメだ。ぬるい水の中を動いているような気持ちになる。動きは自然と鈍くなり、頭の働きも緩慢になっている気がする。
年に1回くらいの頻度で何しても上手くいく日がやってくる。運がいいとかそういう話じゃなくて、会話がスムーズに行えるとか、とにかく全ての瞬発力がマックスまで引き上げられた状態だ。そういう日は決まって晴れだ。対して雨の日はどうだ。息苦しくて、自分のことで手一杯。とても誰かと実りある会話なんてできない。
というか、365日の内200日くらいはそんな感じだ。寝起きなんて日本語が喋れているとは到底思えない。
もし僕が新米アイドルで寝起きドッキリなんて仕掛けられたらお蔵入り間違い無いだろう。

以前Twitterでも話したことがあるけれど、ここ数年は特にひどい。ぼんやりとただ夢の続きみたいな毎日を送っている。モヤがかかってなんだか居心地の悪い、歯切れの悪い感覚が体にまとわりついて離れない。もちろん、1日中というわけではない。瞬間的に回路が繋がる時もある。どのタイミングだろう。
そして、一つの答えに辿り着く。非日常だ。大それた話ではなく、いつもと違う、普通と違う状況の時に僕は僕として目が覚める。

今日も喫茶店でボッーとしていた。
仕事中なのか、僕の近くの席で小声で電話をかけている若い女性。彼女に明らかに纏う雰囲気の違うオバさんが唐突に怒鳴る。
「アンタ!ウィルスを撒き散らしているのよ!控えなさい!」
オバさんが猛る。店内は凍る。オバさんと店内の温度差がどんどん広がっていく。地獄だ。
僕はこういうとき、とにかく耐えられない。凍った空気にヒビを入れるように吹き出してしまう。
「何がおかしいのよ!」
標的が僕にスライドし詰め寄るオバさん。こんなに顔を赤くして怒る人なかなか見れないなと思った。
「ソーシャルディスタンスでお願いします。」とオバさんの前に手をかざす。
この辺りで何人か笑ってる。電話のお姉さんも笑ってる。
この後はオバさんが鼻息荒く喫茶店を出ていって終わるだけなので特筆すべきとこもない。
と、ここまで書いたけど、別に僕はスカッとジャパンが言いたかったわけじゃない。実際は「ソ…ソーシャルディスタンス…」みたいに吃ってた気もする。脳内で気持ちよく補完してるだけかもしれない。ただ、紛れもなくあの瞬間僕の脳みそは目が覚めていたし、何よりワクワクしていた。少なくとも身は軽かった。

昔から変な人がいるとワクワクしてしまう。以前からそういう傾向はあった。しつこく客引きをしてくるキャッチを煽りすぎて収拾がつかなくなることもあった。宗教の勧誘を受け家についていったこともあった。チンピラに「表に出ろ」と言われ彼のベンツの助手席で説教を受けたこともあった。海外では違法タクシーに捕まり拳銃を突きつけられたこともあった。言い出せばキリがない。が、その全てでニコニコワクワクしていた。妻には「いつか刺されるよ」と常に言われている。

決して武勇伝じゃない。鼻を高く、胸を張って話すようなことじゃない。誰に彼に話すようなことじゃない。ちょっと話が詰まった時に出す小ネタばかり。

本当にいつか刺されて倒れるかもしれない。そうならない程度に頭の中でパチパチと火花を散らせながら生きていきたい。