断絶覚え書き

書いたり書かなかったり

普通でないこととその処方箋

 

夫のちんぽが入らない (講談社文庫)

夫のちんぽが入らない (講談社文庫)

  • 作者:こだま
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫
 

 

 

ここは、おしまいの地

ここは、おしまいの地

  • 作者:こだま
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2018/01/25
  • メディア: 単行本
 

 

 最近思い出したように本を読んでいる。

 こだまさんは僕のフォロワーの人がしきりに推薦しているので前々から気になっていた。が、ちょっと怖くて二の足を踏んでいた作家さんだ。タイトルも「夫のちんぽが入らない」とただ事じゃない。

 

 結論からいうと、柔らかいところをずっと殴られているような。とんでもない本だった。けど、止まらない。スルスルと入ってくる。不思議で不思議でしょうがない本。

 

こだまさんの夫婦生活や家族関係なんかを書いたエッセイなんだけど、閉鎖的な村で生まれたこだまさんの普通との戦い、同調圧力への反発。そのあたりが余すところなく詰め込まれた私小説。

幾度となく普通を強要されるシーンが出てくる。その描写が細かく丁寧に、丁寧すぎるほどで、その度に胸をえぐられるような、全く僕と状況は違うにも関わらず他人ごとに感じない、感じさせない。そこがとても辛かった。読みながら精神力を直に消費しているのがわかる。読んでこれなら書いてるこだまさんはどうなんだろう。と思うとまた頭を抱える羽目になった。

全編を通じて夫婦間のコンプレックスとしての「夫のちんぽが入らない」がつきまとう。周囲から普通を求められる苦悩や、職場での苦悩、それらのベースに幼少期の体験や夫婦間のコンプレックスがあり、物語が進むにつれそれらとの折り合いの付け方を身につけていく。

 

 

 

 

 

 僕は別に親との明確な衝突や、両親からひどい仕打ちを受けたこともない。学校で誰かと話すのに赤面したりすることもない。身体的なコンプレックスもないわけではないけど、思い悩んだことはない。比較的ひどいことのない人生だと思う。なんなら運のいい人生だと思う。根拠のない自信だけは人一倍ある。

読めば読むほどこだまさんと僕は真逆だ。そんな僕がこの物語に感情移入できたのは確実にこだまさんの旦那さんのおかげだと思う。彼とはシンパシーを感じる。もちろん彼ほど真面目でもないし、真摯でもない。人生をついでで生きてる僕とはほとんど違うけれど、根っこの思想というか、この両目が向いてる方向が似ているように感じた。

「夫のちんぽが入らない」を読んだ後すぐに「ここは、おしまいの地。」を読んだ。厳密に言えば、やっぱりちょっと躊躇した。キツいかもしれないぞ。大丈夫かな。そんな精神状態とは裏腹に体は素直にアマゾンでポチっていた。体はこだまさんの人生の断片を欲しがっていたのかもしれない。

「ここは、おしまいの地」を読んでなおさらこだまさんと僕はまるで違う。と思い知らされた。

僕は言いたいことを溜め込まない。すぐに口に出す。モヤモヤすればその場で解消できるまで暴れ散らかす。両者ボロボロになろうとも最後までやってしまう。他人には無関心だし、誰からなんと思われようとどうでもいい。しかし、普通はそうでない。と気づいたのは恥ずかしながらつい最近のことだ。そうだ。僕もこだまさんとは逆のベクトルで普通ではない。

こんなに傍若無人に生きてても心は疲弊するんだ。痛覚がぶっ壊れてるだけで矢が刺さってないわけじゃない。血が出てないわけじゃない。気づいたら足にきてて、10カウントが頭上で鳴り響いてる。時すでに遅し、覆水盆に返らず、いつ何時グッバイ世界になるかわからない。

 

ちんぽ物語終盤、こだまさんはコンプレックスから徐々に解放されていく描写がある。それは諦めというには希望の色が強いような。前向きな諦めというか、全て織り込んだ上でやっていくというか。コンプレックスを飲み込んだという表現が近いと思う。これは年月を重ねたから言えることなのかもしれない。けれど、どんなルートを通ろうと、他ならぬ自分との折り合いの付け方を見つけたのは本当に救われた。誰がって僕が。これからもどんなところに沼が広がっているかわからないけれど、とりあえず今は前を向いて立ってるだけでいいじゃない。そんな風に思えた。

 

「ここは、おしまいの地」を読むとなお一層その感覚は強くなった。前作でははちゃめちゃに地元のことを言っていたのに、少しずつ家族との関係性や集落の認識も明るいものに変わっていっているように感じた。

 

 

最近Twitterでこだまさんのことをフォローし始めた。多分、僕はこの人のことが好きなんだと思う。作る文章も、その苦悩も、好きなんだと思う。対極に位置する人間として、同時に普通でないことに悩む同胞としてこだまさんの健やかな未来を切に願います。

 

 

 

追記

エッチのシーンの「でん、ででん。」と旦那さんの「キジトラ」のくだりは笑っちゃった。