断絶覚え書き

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「死にたい夜にかぎって」寛容ということ

 

死にたい夜にかぎって

死にたい夜にかぎって

  • 作者:爪 切男
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2018/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 実は、爪切男さんのことは随分と前、それこそ10年近く前からその存在を知っていた。この本に関しても発売された当時から知っていた。なんなら本屋で冒頭を読んだのを覚えている。

 

さわりの部分を読んで僕は強烈な吐き気に襲われて買えなかった。誤解のないように言っておくと、爪切男さんに問題があるわけではない。100%僕側の問題だ。

 

当時僕は6年同棲し婚約をしていた彼女にこっぴどく振られた直後だった。僕の脳みそは瓦解し、その形をとどめることすらできなかった。そんな状況だった。

そんな時に「死にたい夜にかぎって」の冒頭。本屋で発狂するかと思った。あれから2年弱、僕は違う人と結婚をした。

このタイミングなら行けるかもしれない。と読み始めることに。正直、以前ほどのダメージはなかったけれど、それでも辛いことには変わりなかった。ただ今回は衝撃や驚きの方が多かった。

 

「アスカ」との別れからスタートするこの話。道中は彼の恋愛遍歴、そして冒頭のシーンに戻ってくる。

 

通じて爪さんの寛容さ、というか優しさで綴られる文章。恨み節がない。どんなに辛いことがあっても「まぁいいか」でおさめられる強さ。精神のしなり、タフネス。往年のプロレスラーのようなその精神性。

僕にはとにかく衝撃だった。なんでこんなにも世界とのズレを許容しながら、柔軟に生きれるのか。

 

僕はこういう柔軟性というのが欠けている。理不尽には人一倍敏感だ。幼い頃に受けた理不尽は今でも記憶に残っているし、おそらくこれからも一生忘れない。他人からひどい扱いを受ければ死に際の床でも思い出すだろうし、今でもふと脳裏をよぎる。時間が解決してくれるという選択肢がない。僕の異常性の最たる部分がここだと思う。普通の人は薄れるらしい。

 

爪さんは違う。薄れるだのそんな話じゃなく感じた。例えばアスカに振られ、不遇を強いられる場面でも「まだ好きなんです。」と心の一番柔らかいところを見ず知らずのホームレスのおっちゃんに告白したりする。目頭が熱くなるほどに素直だ。別れた時点でおそらく30超えてるはずなのに。こんなにも人間は素直で、そして柔軟でいられるのか。僕には衝撃だったし、羨ましくもあった。僕は結婚してもどんなに幸せになっても、それでも過去にえぐられた古傷を見つめては憎悪と恐怖に溺れるというバカバカしい行為を今でも続けているというのに。

 

僕にあぁはなれない。でも、それでも、そういう生き方を渇望するし、憧れる。

パチンコを打ちながら読んでいたのだけど、ついに読み終えたとき、不覚にも泣いてしまった。なんの涙かはわからない。羨ましいからなのか、悲しいからなのか、説明のつかない涙だった。はたから見たら負けすぎて泣いてるヤバい奴でしかなかった。

 

僕も、自分と世界のズレに対してもう少し寛容でありたい。そうすれば、「世界を変えるか死ぬか」なんてバカみたいな2択にぶち当たる機会も減るだろう。

 

 

爪切男さんの爪の垢煎じて飲もうかな。